Fate in 英国(多分)
ロードエルメロイ二世の事件簿(コミカライズ版)を
読んでてふと思ったこと。
「…? 何だ、コレ。ゲームログ?セーブデータ?」
PCの入替がてらHDDの整理をしつつ見つけたデータ。
ファイル名のつけ方が自分のつけ方ではなくて目についたそれ。
「んー?大戦略…ああ、ベルのか、コレ」
友人に泣きつかれてサルベージしたデータ。本人には元通り
ゲーム機で使えるように保存して渡したけど、壊れかけの媒体
から引っこ抜いたデータがそのままのファイル名で残っていた
らしい。
所詮電気信号。ゼロとイチが織りなす他愛のない遊戯の履歴。
リセットしてしまえば、何もなかったことになるのが当たり前
なのに、もう一度初めから始めれば、同じ終局を映すはずなの
に、どうにかしてほしいと依頼されたモノ。
前に見た時も思ったけど、コレ、二人分だよなぁ。
ファイルは1つではなくて、いくつかのデータがまとまって
ログを形成する仕様ではあるけれど、そのまとまりでさえも
複数あるのだけど、読み取れる差異。
ベルと、もう一人の誰かの軌跡。
失くしたくなかった、誰かの足跡。
「クロウ?」
そっと、扉を開けてなされた存在確認に手をあげて応える。
「作業中か?」
「いや、ちょっと懐かしいものが出てきたから休憩中」
「懐かしい? これは…っ」
東洋人にもみえる黒髪の青年が画面を見やって息をのむ。
「お前、戦場(ステージ)で何か探してんの?」
かつて、問いかけた言葉を投げかける。
ステージのクリアを目的とするには奇妙な運用は、ゲームに
不慣れなせいかと思えばそうでもなく、純粋に興味として投げ
かけた疑問。
「懐かしい科白だな」
「まあ、泣き出さないくらいには、落ち着いたようで」
あの時は、ぽろぽろ泣き出してこっちが焦った。
「探し物は見つかったか?」
「さて、難しい話だな」
ふーん。
「で、収支報告は持ってきたんだろうな?」
「その件なんだが…」
「俺の期限はずらせても、役所の期限はずらせないんだよ、
ベル?」
にっこり笑うと、ベルが一歩後ずさる。
「『嬉し恥ずかしロード・エルメロイ二世の日常(リアル)』
って動画チャンネル作られたくなかったら、さっさと座って
仕上げろ?」
役所からお呼び出しとか、追徴課税がいいなら止めないけど?
読んでてふと思ったこと。
「…? 何だ、コレ。ゲームログ?セーブデータ?」
PCの入替がてらHDDの整理をしつつ見つけたデータ。
ファイル名のつけ方が自分のつけ方ではなくて目についたそれ。
「んー?大戦略…ああ、ベルのか、コレ」
友人に泣きつかれてサルベージしたデータ。本人には元通り
ゲーム機で使えるように保存して渡したけど、壊れかけの媒体
から引っこ抜いたデータがそのままのファイル名で残っていた
らしい。
所詮電気信号。ゼロとイチが織りなす他愛のない遊戯の履歴。
リセットしてしまえば、何もなかったことになるのが当たり前
なのに、もう一度初めから始めれば、同じ終局を映すはずなの
に、どうにかしてほしいと依頼されたモノ。
前に見た時も思ったけど、コレ、二人分だよなぁ。
ファイルは1つではなくて、いくつかのデータがまとまって
ログを形成する仕様ではあるけれど、そのまとまりでさえも
複数あるのだけど、読み取れる差異。
ベルと、もう一人の誰かの軌跡。
失くしたくなかった、誰かの足跡。
「クロウ?」
そっと、扉を開けてなされた存在確認に手をあげて応える。
「作業中か?」
「いや、ちょっと懐かしいものが出てきたから休憩中」
「懐かしい? これは…っ」
東洋人にもみえる黒髪の青年が画面を見やって息をのむ。
「お前、戦場(ステージ)で何か探してんの?」
かつて、問いかけた言葉を投げかける。
ステージのクリアを目的とするには奇妙な運用は、ゲームに
不慣れなせいかと思えばそうでもなく、純粋に興味として投げ
かけた疑問。
「懐かしい科白だな」
「まあ、泣き出さないくらいには、落ち着いたようで」
あの時は、ぽろぽろ泣き出してこっちが焦った。
「探し物は見つかったか?」
「さて、難しい話だな」
ふーん。
「で、収支報告は持ってきたんだろうな?」
「その件なんだが…」
「俺の期限はずらせても、役所の期限はずらせないんだよ、
ベル?」
にっこり笑うと、ベルが一歩後ずさる。
「『嬉し恥ずかしロード・エルメロイ二世の日常(リアル)』
って動画チャンネル作られたくなかったら、さっさと座って
仕上げろ?」
役所からお呼び出しとか、追徴課税がいいなら止めないけど?
Fate in Recode
没ネタ系第二弾…というかFate/staynight Realta Nua プレイ後
最初に思い浮かんだのはこちらのネタ。
ある意味職業病。
例によってシリキレトンボ。
それでもいい方のみ続きをどうぞ。
「こんにちは、荷物をお届けに参りました」
にっこり笑って挨拶したこちらを、相手は異物を見る目で見返した。
実際異物なんで、その態度についてはどうでもいい。
「英霊□□□さんで間違いありませんね?」
「貴様、何者だ」
何者なんでしょうね、俺は。
「んー、通りすがりのNPC?」
通行人程度の、いてもいなくても進行に影響がない程度の。
『ようこそ○○へ』って出迎える町娘程度の。
「 …… 」
沈黙と共に眉間の皺が深まる。
「まぁ、何でも屋です。主にメンテナンス系の」
眉間の皺が(以下略)
「一度きちんとお話した方がいいと思ってお邪魔したんですが、お時間よろしいで
しょうか?」
「生憎、勧誘も押し売りも間に合っている」
ああ、やっぱりその手の科白に聞こえたか。我ながらどこのキャッチかと突っ込
んでいたところなんで同一認識で有り難い。
「そんなんじゃありません。今回の記録をお届けに───」
瞬間、空から具現化された刃が何の躊躇もなく振り抜かれる。
ギンッと歪な金属音が響いた。
「っとに、容赦ねぇな」
7分割とか14分割とか勘弁してほしいんですけど。
「馬鹿な」
「バカはアンタです」
予想通りの反応に笑いを通り越して呆れる。
「アンタに俺の書込権限、削除権限はありません」
故に、アンタの攻撃は通じない。ペン1本でだって弾き返せる───なんていって
も理解できないだろうけどね。
「はい、俺、丸腰。英霊とガチンコ対決なんて御免被るんで、その辺よろしく」
本題入りたいんですけど、いいでしょうか?
「アンタ、確認メッセージ読まずに『はい』を選ぶクチでしょ」
「何の話だ」
「アンタの話です」
言い返して、溜息が一つ。
「『保存しますか?』『上書きしますか?』『圧縮しますか?』───確認メッセージ、
読まずに『はい』を選んでるでしょ?」
興味がないから、そんなメッセージにさえ気づいてない?
「色んなメッセージがあるけど、一つだけ、俺、提示していないメッセージがあるんだ
よね」
「何がいいたいのだ、貴様は」
「『削除しますか?』───俺、アンタに一度も提示してないよ?」
眉間の皺が増える。
「記録に関していえば、アンタは何も失っていないっていってるんだけど、理解できる?
摩耗して消えるって、どこの接触型記録媒体だよ」
その姿形で磁気テープか? フロッピーディスクか?
「百歩譲って皮膜が酸化したってんなら、情報劣化もありですけどこの環境でそれはない。
アンタ自身の情報検索経路が途絶したとしても、情報そのものは何一つ欠けてはいない
───すべてココにある」
つい、と指先が示したのは、英霊の胸。
「アンタが拒絶して、否定しても、悲しいかな、記録はすべてアンタの中へと降り積もる」
アンタというフォルダの中へと積み上げられる。
現在はもとより、過去も未来もすべての情報を蓄積するこの場で「降り積もる」や「積み
上げられる」という表現より「開示される」という方が適切だろうか。
「───貴様、何者だ?」
繰り返された問いかけは、先の誰何とは別の色。
「Operating System───この情報を統括する機能の一部」
この情報群を巨大なデータベースと位置づければ、俺の立ち位置はその末端。
ついでに外部から何とかアクセスしようとしてる魔術師達はサーバにクラックかけてるよう
な位置づけだったりする。分不相応な辺りに手を出すと灼かれる辺りもよく似ている。
ギンッと再度響く金属音。
「あらら…」
明滅する赤丸×印のメッセージウィンドウ。
まあ、変更権限なくても物理破損は生じるわな。
「俺を壊しても、契約継続されるよ」
俺なんてセル一つにも満たないし、ファイルを作り直せば破損前にもどるし。
とはいえ、今目の前でこうして話している俺は消えるわけで…。
「なぁ、□□□。繰り返し、繰り返し、いくつもの道をたどり、彼女達と出会い行き>着いた
結末は、本当に無意味だったのか? 何も生み出さなかったのか?」
問いかけの答えは、意識と一緒に0と1の海に消えた。
おしまい
最初に思い浮かんだのはこちらのネタ。
ある意味職業病。
例によってシリキレトンボ。
それでもいい方のみ続きをどうぞ。
「こんにちは、荷物をお届けに参りました」
にっこり笑って挨拶したこちらを、相手は異物を見る目で見返した。
実際異物なんで、その態度についてはどうでもいい。
「英霊□□□さんで間違いありませんね?」
「貴様、何者だ」
何者なんでしょうね、俺は。
「んー、通りすがりのNPC?」
通行人程度の、いてもいなくても進行に影響がない程度の。
『ようこそ○○へ』って出迎える町娘程度の。
「 …… 」
沈黙と共に眉間の皺が深まる。
「まぁ、何でも屋です。主にメンテナンス系の」
眉間の皺が(以下略)
「一度きちんとお話した方がいいと思ってお邪魔したんですが、お時間よろしいで
しょうか?」
「生憎、勧誘も押し売りも間に合っている」
ああ、やっぱりその手の科白に聞こえたか。我ながらどこのキャッチかと突っ込
んでいたところなんで同一認識で有り難い。
「そんなんじゃありません。今回の記録をお届けに───」
瞬間、空から具現化された刃が何の躊躇もなく振り抜かれる。
ギンッと歪な金属音が響いた。
「っとに、容赦ねぇな」
7分割とか14分割とか勘弁してほしいんですけど。
「馬鹿な」
「バカはアンタです」
予想通りの反応に笑いを通り越して呆れる。
「アンタに俺の書込権限、削除権限はありません」
故に、アンタの攻撃は通じない。ペン1本でだって弾き返せる───なんていって
も理解できないだろうけどね。
「はい、俺、丸腰。英霊とガチンコ対決なんて御免被るんで、その辺よろしく」
本題入りたいんですけど、いいでしょうか?
「アンタ、確認メッセージ読まずに『はい』を選ぶクチでしょ」
「何の話だ」
「アンタの話です」
言い返して、溜息が一つ。
「『保存しますか?』『上書きしますか?』『圧縮しますか?』───確認メッセージ、
読まずに『はい』を選んでるでしょ?」
興味がないから、そんなメッセージにさえ気づいてない?
「色んなメッセージがあるけど、一つだけ、俺、提示していないメッセージがあるんだ
よね」
「何がいいたいのだ、貴様は」
「『削除しますか?』───俺、アンタに一度も提示してないよ?」
眉間の皺が増える。
「記録に関していえば、アンタは何も失っていないっていってるんだけど、理解できる?
摩耗して消えるって、どこの接触型記録媒体だよ」
その姿形で磁気テープか? フロッピーディスクか?
「百歩譲って皮膜が酸化したってんなら、情報劣化もありですけどこの環境でそれはない。
アンタ自身の情報検索経路が途絶したとしても、情報そのものは何一つ欠けてはいない
───すべてココにある」
つい、と指先が示したのは、英霊の胸。
「アンタが拒絶して、否定しても、悲しいかな、記録はすべてアンタの中へと降り積もる」
アンタというフォルダの中へと積み上げられる。
現在はもとより、過去も未来もすべての情報を蓄積するこの場で「降り積もる」や「積み
上げられる」という表現より「開示される」という方が適切だろうか。
「───貴様、何者だ?」
繰り返された問いかけは、先の誰何とは別の色。
「Operating System───この情報を統括する機能の一部」
この情報群を巨大なデータベースと位置づければ、俺の立ち位置はその末端。
ついでに外部から何とかアクセスしようとしてる魔術師達はサーバにクラックかけてるよう
な位置づけだったりする。分不相応な辺りに手を出すと灼かれる辺りもよく似ている。
ギンッと再度響く金属音。
「あらら…」
明滅する赤丸×印のメッセージウィンドウ。
まあ、変更権限なくても物理破損は生じるわな。
「俺を壊しても、契約継続されるよ」
俺なんてセル一つにも満たないし、ファイルを作り直せば破損前にもどるし。
とはいえ、今目の前でこうして話している俺は消えるわけで…。
「なぁ、□□□。繰り返し、繰り返し、いくつもの道をたどり、彼女達と出会い行き>着いた
結末は、本当に無意味だったのか? 何も生み出さなかったのか?」
問いかけの答えは、意識と一緒に0と1の海に消えた。
おしまい
Fate in 英国?
Fate/StayNightプレイ後の落書きを書き散らかし。
以下に出てくる「scarecrow」はオリキャラで、ウェイバー君の
友人(男)予定で書いておりました。
きっと予算報告とか収支報告とか協会に提出するんだろうなぁ…
と考えたのがネタ元です。
Fate/Extra(7/22発売)が電脳世界ネタっぽいので、没ですな(--;
「いい加減、収支報告くらい電子媒体で寄越せ」
休暇明けの机の惨状にうんざりと呟く。
どいつもこいつも結構な量になるそれらを紙で寄越すおかげで、分厚い封書が山積みだ。
これからこいつらを確認して、最悪の場合ミミズ文字の解読と手入力。
「あの…」
「はい? あーごめん、ちょっと散らかってて…」
「ライ、ダー…!?」
「はい?」
ライダー? それってバッタの仲間の1号、2号?
「す、すみません。知ってる人に似ていたもので」
微妙な沈黙のあと、少年は慌てて頭をさげた。
「へぇ。まあ、世の中同じ顔は3人いるらしいから───で、何の用かな?」
見かけない顔だけど
「この書類をココへ持っていくようにっていわれて」
少年が差し出した封筒の中身を改める。
何種類かの申請書とその控え。雑然としたそれらは期限も形式もまちまちで渡した側の
悪意を少なからず感じる。
「了解。うちの手続きしておくから、コレとコレはココに出して、こっちは各自保管。そ
れからこっちの書類は、悪いけど書式変更前のヤツだから書き直さないと受理されない」
新人イジメに古い書式渡すって、了見の狭い阿呆もいたもんだ。
「とりあえず、そっち先出してくるといい。必要なモノは揃えておくから」
簡単な地図を記したメモを付け、少年を送り出す。
「さぁて、くだらねぇ嫌がらせしてるヤツは後で吊すとして、とっとと片付けますか。
───BootUp。Login scarecrow」
紙の山の中、作動音と共に薄明るいディスプレイが浮かび上がる。
コンコン。
「はい、どうぞ」
ほどなくしてノックされたドアから顔を出したのは赤銅色の髪をした先刻の少年。東洋
人というのを差し引いても、高校生にしては少し小さいかな。
「さっきはどうも…」
「いらっしゃい。君の名前、衛宮士郎で間違いない?」
書面を確認しながら本人確認。
「あ、はい」
「じゃあ、書類はこの中に一式揃えたから、後は本人の署名を入れて提出すればいいよ」
署名だけっていっても、結構な枚数あるけどね。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。ああ、お茶いれるけど飲む?」
「あ、いや、多分遠坂が待ってると思うんで…って、あれ?」
「?」
少年の戸惑いにあわせこちらも首を傾げる。
「あの…日本語、ですよ、ね。さっきから」
「君、日本人でしょ? だから日本語で話してるんだけど…俺の日本語、変?」
確かに、日本語で話すのは久しぶりだからどこかおかしいかもしれない。
「変じゃないです。ただ、ちょっとびっくりして」
「まあ、基本英語だわな」
ここ、一応イギリスなわけだし。
「そうなんですよねぇ…」
へにょり、と少年の眉が下がり、溜息が一つ。言葉の壁、か。言語による意志疎通がまま
ならないというのは確かにストレスだろう。
「必要なら携帯型の翻訳機手配するけど?」
ああ、その前に。
「君、携帯電話使える?」
「はぁ。一般的な使い方でよければ」
ふむ。
「じゃあ、パソコンは?」
「メールと、ホームページの閲覧ぐらいは…」
そういえば、昨今日本の学校では授業で『情報』なんて科目があるんだっけか。
「十分、十分」
表計算ソフトが使えればなおよしだけど、あまり期待はしないでおこう。
魔術師って輩は機械音痴が多い。思考の方向性が一般人と違うのだろう、多分。
「こっちの鞄がうちからの支給品。ノートパソコンが1台。精密機器なんで丁寧に扱ってね。
ログインIDとパスワードはこっちの封筒に入ってるからそれぞれ自己責任で管理すること。
パスワードは必ず自分で変更すること。住所、氏名、電話番号、生年月日をパスワードに使
わないこと。パスワードを本体に貼らないこと」
「───何か、すごく基本的なこといわれてる気がするんですけど」
「その基本的なことが守れないヤツが大量にいるんだよ、これが」
魔術師に限らず、世間一般システム管理者、担当者にとっての悩みの種である。
「本体破損したのでなければ、小一時間で今の状態に戻るから、どうにもならなくなったら
持ってくるといい」
「本体を壊したら…?」
「ここで対応できるならバラして直すけど、お手上げならメーカ送り」
「えーと、その、費用は?」
「基本的にうちの経費。ああ、ひょっとして、遠坂嬢は壊し屋(クラッシャー)?」
あ、う、え…と言い淀むあたり、あながち外れではなさそうだ。
「とりあえず、この辺からはじめる?」
手帳のようなサイズのそれはいわずとしれた携帯ゲーム端末。
「元々子どもをターゲットにした筐体だから壊れにくいよ」
象が踏んでも…なペンケースには負けるが、壊れにくさは電子機器の中では随一ではなか
ろうか。
「そうそう。コレ、おまけね」
ちゃり、とUSBメモリを手渡す。
「? 何ですか、コレ」
「んー、お部屋用洗剤? 盗聴器とか無効にするためのプログラムいれといたから、試しに
部屋で使ってみるといいよ」
ひょっとしたら、ひょっとするからねぇ。
「盗、聴器…?」
「そう、盗聴器」
聞き間違いじゃなくて、盗聴器。
「俺が直接掃除に行ってもいいけど、そこまで信用できないでしょ」
「あ、いや…その…」
「あー、言い方が悪かった。魔術師って、自分の領域に他者が入るのを嫌うでしょ。面識の
少ない、得体の知れない輩を警戒するのは当たり前だから自衛につとめてね、って話。本当
珍しい話じゃないから気をつけてね。隠しカメラって場合もあるから」
私生活駄々漏れの魔術師って、どれだけ迂闊なんだか。
「は、い…」
「俺からの注意点はそんなとこ。何か質問は?」
「あ、いや、特には…」
「じゃあ、何かあったらココに連絡してくれ」
直通の電話番号とメールアドレスを記した名刺。
「はい。色々ありがとうございました」
さわやかな礼儀正しさで、少年は去っていった。
コンコンコンコンコン。
慌ただしいテンポでノックされる扉。
「開いてますよ」
コンコンコンコンコン。
「開いてます」
コンコンコンコンコン。
「はいはい、開いてますって―――扉を開けて招いてもらわないと入れないような狐狸
妖怪の類ですか、あなたは」
3度目の応答と共に扉を開けると、見知った顔が眉をしかめる。
「差し入れだ。どうせ、食べていないのだろう」
「ご明察。何か飲みます?」
「ああ」
そういいつつも、カウンターの内側、機器が稼働する範囲に入ろうとはしない。
「いつ見ても壮観だな」
いくつもの機器が同時稼働するフロアに落ちた呟き。
「あなた方がやってることと大差ないと思いますけど? 構築式を用意して、組み上げ
て起動する―――魔術もプログラムも一緒でしょうに
以下に出てくる「scarecrow」はオリキャラで、ウェイバー君の
友人(男)予定で書いておりました。
きっと予算報告とか収支報告とか協会に提出するんだろうなぁ…
と考えたのがネタ元です。
Fate/Extra(7/22発売)が電脳世界ネタっぽいので、没ですな(--;
「いい加減、収支報告くらい電子媒体で寄越せ」
休暇明けの机の惨状にうんざりと呟く。
どいつもこいつも結構な量になるそれらを紙で寄越すおかげで、分厚い封書が山積みだ。
これからこいつらを確認して、最悪の場合ミミズ文字の解読と手入力。
「あの…」
「はい? あーごめん、ちょっと散らかってて…」
「ライ、ダー…!?」
「はい?」
ライダー? それってバッタの仲間の1号、2号?
「す、すみません。知ってる人に似ていたもので」
微妙な沈黙のあと、少年は慌てて頭をさげた。
「へぇ。まあ、世の中同じ顔は3人いるらしいから───で、何の用かな?」
見かけない顔だけど
「この書類をココへ持っていくようにっていわれて」
少年が差し出した封筒の中身を改める。
何種類かの申請書とその控え。雑然としたそれらは期限も形式もまちまちで渡した側の
悪意を少なからず感じる。
「了解。うちの手続きしておくから、コレとコレはココに出して、こっちは各自保管。そ
れからこっちの書類は、悪いけど書式変更前のヤツだから書き直さないと受理されない」
新人イジメに古い書式渡すって、了見の狭い阿呆もいたもんだ。
「とりあえず、そっち先出してくるといい。必要なモノは揃えておくから」
簡単な地図を記したメモを付け、少年を送り出す。
「さぁて、くだらねぇ嫌がらせしてるヤツは後で吊すとして、とっとと片付けますか。
───BootUp。Login scarecrow」
紙の山の中、作動音と共に薄明るいディスプレイが浮かび上がる。
コンコン。
「はい、どうぞ」
ほどなくしてノックされたドアから顔を出したのは赤銅色の髪をした先刻の少年。東洋
人というのを差し引いても、高校生にしては少し小さいかな。
「さっきはどうも…」
「いらっしゃい。君の名前、衛宮士郎で間違いない?」
書面を確認しながら本人確認。
「あ、はい」
「じゃあ、書類はこの中に一式揃えたから、後は本人の署名を入れて提出すればいいよ」
署名だけっていっても、結構な枚数あるけどね。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。ああ、お茶いれるけど飲む?」
「あ、いや、多分遠坂が待ってると思うんで…って、あれ?」
「?」
少年の戸惑いにあわせこちらも首を傾げる。
「あの…日本語、ですよ、ね。さっきから」
「君、日本人でしょ? だから日本語で話してるんだけど…俺の日本語、変?」
確かに、日本語で話すのは久しぶりだからどこかおかしいかもしれない。
「変じゃないです。ただ、ちょっとびっくりして」
「まあ、基本英語だわな」
ここ、一応イギリスなわけだし。
「そうなんですよねぇ…」
へにょり、と少年の眉が下がり、溜息が一つ。言葉の壁、か。言語による意志疎通がまま
ならないというのは確かにストレスだろう。
「必要なら携帯型の翻訳機手配するけど?」
ああ、その前に。
「君、携帯電話使える?」
「はぁ。一般的な使い方でよければ」
ふむ。
「じゃあ、パソコンは?」
「メールと、ホームページの閲覧ぐらいは…」
そういえば、昨今日本の学校では授業で『情報』なんて科目があるんだっけか。
「十分、十分」
表計算ソフトが使えればなおよしだけど、あまり期待はしないでおこう。
魔術師って輩は機械音痴が多い。思考の方向性が一般人と違うのだろう、多分。
「こっちの鞄がうちからの支給品。ノートパソコンが1台。精密機器なんで丁寧に扱ってね。
ログインIDとパスワードはこっちの封筒に入ってるからそれぞれ自己責任で管理すること。
パスワードは必ず自分で変更すること。住所、氏名、電話番号、生年月日をパスワードに使
わないこと。パスワードを本体に貼らないこと」
「───何か、すごく基本的なこといわれてる気がするんですけど」
「その基本的なことが守れないヤツが大量にいるんだよ、これが」
魔術師に限らず、世間一般システム管理者、担当者にとっての悩みの種である。
「本体破損したのでなければ、小一時間で今の状態に戻るから、どうにもならなくなったら
持ってくるといい」
「本体を壊したら…?」
「ここで対応できるならバラして直すけど、お手上げならメーカ送り」
「えーと、その、費用は?」
「基本的にうちの経費。ああ、ひょっとして、遠坂嬢は壊し屋(クラッシャー)?」
あ、う、え…と言い淀むあたり、あながち外れではなさそうだ。
「とりあえず、この辺からはじめる?」
手帳のようなサイズのそれはいわずとしれた携帯ゲーム端末。
「元々子どもをターゲットにした筐体だから壊れにくいよ」
象が踏んでも…なペンケースには負けるが、壊れにくさは電子機器の中では随一ではなか
ろうか。
「そうそう。コレ、おまけね」
ちゃり、とUSBメモリを手渡す。
「? 何ですか、コレ」
「んー、お部屋用洗剤? 盗聴器とか無効にするためのプログラムいれといたから、試しに
部屋で使ってみるといいよ」
ひょっとしたら、ひょっとするからねぇ。
「盗、聴器…?」
「そう、盗聴器」
聞き間違いじゃなくて、盗聴器。
「俺が直接掃除に行ってもいいけど、そこまで信用できないでしょ」
「あ、いや…その…」
「あー、言い方が悪かった。魔術師って、自分の領域に他者が入るのを嫌うでしょ。面識の
少ない、得体の知れない輩を警戒するのは当たり前だから自衛につとめてね、って話。本当
珍しい話じゃないから気をつけてね。隠しカメラって場合もあるから」
私生活駄々漏れの魔術師って、どれだけ迂闊なんだか。
「は、い…」
「俺からの注意点はそんなとこ。何か質問は?」
「あ、いや、特には…」
「じゃあ、何かあったらココに連絡してくれ」
直通の電話番号とメールアドレスを記した名刺。
「はい。色々ありがとうございました」
さわやかな礼儀正しさで、少年は去っていった。
コンコンコンコンコン。
慌ただしいテンポでノックされる扉。
「開いてますよ」
コンコンコンコンコン。
「開いてます」
コンコンコンコンコン。
「はいはい、開いてますって―――扉を開けて招いてもらわないと入れないような狐狸
妖怪の類ですか、あなたは」
3度目の応答と共に扉を開けると、見知った顔が眉をしかめる。
「差し入れだ。どうせ、食べていないのだろう」
「ご明察。何か飲みます?」
「ああ」
そういいつつも、カウンターの内側、機器が稼働する範囲に入ろうとはしない。
「いつ見ても壮観だな」
いくつもの機器が同時稼働するフロアに落ちた呟き。
「あなた方がやってることと大差ないと思いますけど? 構築式を用意して、組み上げ
て起動する―――魔術もプログラムも一緒でしょうに